ウメ樹の三次元点群データを用いたMRによるウメ栽培技術の教示

ウメの剪定や摘花などの技術には暗黙知が多く,その継承には多大な時間が必要です.そのため,それらの技術の継承方法が模索されています.そこで本研究では,MRを用いて栽培技術の継承ができないかを研究しています. 

Fig. 1:計測の様子

実験では,教材としてMRに用いるための三次元点群データを評価するため,GoProを用いて撮影した動画から三次元点群データを作成し,樹の枝径と角度を実測値と比較しました.

Fig. 2:計測結果

結果として,枝径と枝角度はともに十分な精度があることを確認できました. 

今後は,より精度を高めるとともに,作成した三次元点群データをARゴーグルに表示させ,教材としての機能の追加を目指しています. 

目標把持位置ベクトル表示とベジェ曲線に基づく操作補正による遠隔ロボット操作支援システム

ロボット遠隔操作は限られたフィードバックによる操作難易度さが課題としてあります.この課題の解決のため力覚情報や触覚情報をフィードバックするシステムや操作をアシストするシステムなどが提案されています.本研究では単一の視点をディスプレイに表示するロボットアームの遠隔操作における把持タスクをより簡単にするために操作補正と目標位置までの到達に必要な情報を表示するアシスト制御を提案しました. 

Fig. 1:遠隔操作システム概要

提案手法では物体の種類に制限を設けない,操作インターフェイスに高価な計測機器を使用しないことを制約としました.また,提案手法ではベジェ曲線に基づく操作補正を行うことでより物体に接近しやすく,矢印を用いて目標位置までの距離と方向を表示することで視覚的にも操作をアシストします.(Fig. 1 

Fig. 2:アンケート調査結果(左:NASA-TLX,右:SUS)

実験では操作補正の有無と表示機能の有無の4パターンの操作手法を用いて3種類の物体を把持するタスクを行いました.結果として,アンケート調査により提案手法の有効性が示唆されました(Fig. 2).  

今後は,設置タスクへの対応や隠れた物体に対応するなどより様々な操作に対応したアシスト制御の開発を目指します. 

コンパニオンロボットと生成AIを用いた発達障害児のための文章作成支援システムの開発と評価

発達障害児の中には自力で文章を作成することが困難な児童がいます.現在,療育現場において,このような児童たちは療育スタッフの質問に答える形で文章を作成しています.しかし,療育スタッフ不足の問題などから子どもたち自身で継続的に練習できるシステムが必要とされています.そこで本研究では,発達障害児の文章作成能力の向上を目的とし,条件を変えた4種類の文章作成支援システムを開発しました 

Fig. 1:文章作成支援システムの概要

開発したシステムについて,入力方法は「タイピング入力」「音声認識による入力」の2種類,出力方法は「コンパニオロボット(Stack-chan)あり」「コンパニオロボットなし」の2種類です.児童の入力内容に対する返答を作成する部分に生成AIの1つであるChatGPTを用い,自然な返答を実現します.(Fig.1

Fig. 2:発達障害児を対象とした実験の様子

開発したシステムを用いて,どのようなシステムが文章を作成するインタラクションにおいて有効的かを明らかにし,入力方法の違いやロボットの有無が,児童から出力される文章内容に与える影響を調査します.実験では4種類のシステムを使用し,各システムにおける生成単語数の分析,脳波の測定,アンケートを実施しました.(Fig.2 

実験より,児童によって有効的なシステムは異なり,生成単語数の結果とアンケート結果の両方を考慮してシステムを選択する必要があると考えられます.今後知能検査結果との関連性を調査し,また,長期使用による文章作成スキルに与える影響も評価したいと考えています. 

 

大豆圃場の空撮画像における畝や植物の形状特徴による微小アサガオデータセット生成の自動化と検出 

大豆圃場において,アサガオは大豆の生育に悪影響を与えます.近年,田畑の空撮画像を用いて機械学習を使い,雑草を認識する研究が進められていますが,機械学習を行うためには大量なデータを収集する必要がある上,微小な雑草データ・ラベルを収集することは困難で.また,アノテーション作業は大量の画像データを選別し,1枚ずつ色塗りする必要があり,労力がかかります.本研究では,ドローンで撮影した空撮画像から,畝の形状特徴を利用した画像処理により微小なアサガオの画像データを収集,植物の形状・色彩特徴を用いてアノテーションまでを自動化します

Fig. 1:教師画像

実験では,手塗りでラベル付けしたデータセット提案手法で収集したデータセットをセマンティックセグメンテーション学習モデルで比較ました. 

Fig. 2:各データセットの学習における推定結果の比較(正解画像:左,手塗データセット:中,提案手法で収集したデータセット:右)

提案手法で収集したデータセットで行った学習では手塗でラベル付けしたデータセットよりも評価が上回り,少しでも認識できたアサガオの割合は約91%となりました.

今後は,自動で行うアノテーションの精度を上げることと,新しい学習モデルを使用して学習することを目的としています.   

棚間荷物移動動作中の視線解析に向けたVR環境における胴体姿勢と足裏CoPの解析 

近年,少子高齢化や人口減少に伴う労働力不足が社会問題となっており,解決策として代替労働力や生活支援を目的としたヒューマノイドロボットの開発が進められています.ヒューマノイドロボットが自然で効率的な家事動作を実現するためには,視覚情報と動作の関係を正確に把握し,適切な行動設計をする必要がありますそこで本研究では,家事動作である棚だし動作について,箱の中のおもりの重さを変化させた際の腰を使用する速さとCoPが移動する速さの関係性について解析することを目的とします 

Fig. 1:計測環境

実験では,横に並ぶ2つの棚について左の棚から右の棚に箱を持ち上げて移動する際を持つ動作と箱を置く動作に着目して解析を行いました仮想環境ライブラリにUnity3Dを使用しHMDにHTCVive Pro2 Eyeを使用しています動作計測のためにフォースプレート,光学式モーションキャプチャシステム,Vive Trackerを使用して計測を行いました 

Fig. 2:解析結果

箱を持ち上げる動作をするとき,箱の中のおもりがないときと比較して,おもり10kg のときは腰を前屈させてからCoPが最も前方に移動するまでの時間を要しました.したがっ て,重い荷物を持ち上げる際,腰を最も前屈させる準備姿勢になってから力を発揮するまでの準備時間が必要だと考えられます. 

今後は,おもりの重さによって有意差が出た家事動作の視覚情報と動作の関係性を解析することを目標とします.  

動画認識によるマウスのくしゃみ・鼻擦りの自動検出システムの開発

アレルギー性鼻炎は現代社会において多くの人が経験する疾患であり,その研究においてモデル動物としてマウスが広く使用されています.本研究が対象とするアレルギー性鼻炎の実験では,マウスの鼻腔にブタクサ花粉を注入してアレルギー反応を誘発し,その直後に起こるくしゃみや鼻擦り行動を人手で観測・記録しています.しかし,この手法では実験者の拘束時間が長く,休憩を挟まずに観察する必要があるため,実験者への負担が大きいという課題があります.本研究では,アレルギー性鼻炎モデルにおけるマウスのくしゃみや鼻擦り行動を自動的に検出するシステムの開発を,人や動物を対象とした体の部位をトラッキングする動画解析ライブラリであるDeepLabCutの出力結果に基づく行動認識と,3DCNNを用いた動画分類の2つの手法から目指しています.

Fig. 1:DeepLabCutを用いたくしゃみの検出結果
Fig. 2:DeepLabCutを用いた鼻擦りの検出結果
Fig. 3:3DCNNを用いたくしゃみ・鼻擦りの分類結果

DeepLabCutの出力結果による行動認識では,くしゃみの検出精度が20回中6回 (Fig. 1),鼻擦りが7回中6回 (Fig. 2)という結果になりました.3DCNNを用いた動画分類では,くしゃみや鼻擦りを正確に検出するには至らず,依然として改善が必要な状況です (Fig. 3).

Fig. 4:マウス行動検出支援アプリ

また,実験者の負担軽減のためにマウス行動検出支援アプリの開発も行いました (Fig. 4).

今後は,より高精度なデータセット収集やモデルの精度向上を図ります.

狭い空間への収納動作における冗長性を活用した収納動作の動作解析

ヒューマノイドロボットは人間と類似した構造を持っており,冗長性があります.人間は冗長性を活用することで,衝突回避や操作性の向上などを実現しているため,動作の特徴をヒューマノイドに応用することが期待されていますが,人間の動作の特徴はあまり解明されていません.そこで本研究では,狭い空間への収納動作に着目し,人間の冗長性を活用した動作の解析を行っています.

Fig. 1: 計測環境

実験では,使用可能な空間を制限した箱にグラスを収納する動作を対象としました.全身動作の計測には光学式モーションキャプチャを使用し,物体操作のタイミング取得に6軸力覚センサ,バランスの取得にはフォースプレートを用いました(Fig. 1).

Fig. 2: 異なる収納空間条件における肘の高さと胴体の側屈(広い: 左,狭い: 右)

モーションキャプチャデータから胴体の傾きや捻り,肘や肩の関節角度,肘の高さを解析した結果,狭い空間にものを収納する際は肘を高く持ち上げて収納し,その際に胴体の側屈が利用されていることが示唆されました(Fig. 2).

今後は,階層的クラスタリングを用いて個人差を考慮した解析を行っていきます.